
志焱のこだわり

【暖簾】
甘酒横丁にほど近い人形町に2020年3月オープンした西洋割烹志焱 。暖簾に描かれた6つの瓢箪(ひょうたん)には、人が病気をせず健康でいる無病(六瓢)息災への思いを込めました。店名の「焱」は、厨房に据えられた窯の前に立ち続けるシェフ北島のPizzaiolo(ピッツァイオーロ、ピザ焼き職人)としての食へのこだわりと素材への飽くなき探求心を意味します。


福岡住宅街の店「ロータス」から、東京・人形町の西洋割烹志焱に
西洋割烹志焱のシェフとオーナーの出会いは、約6年前。東京と福岡、それぞれに住まいを持ち、行き来していたオーナーは、シェフの当時、福岡にあった店を好んで訪ねていた。シェフの店は、福岡平尾の住宅街にあり、カウンター含めて17席しかない小さなピザ屋。オーナーはいつも、カウンターから離れたテーブル席で1人、ピザを食べワインを飲んでいた。
ちょうど3年前のある日のことだった。混み合った店内で、カウンターの1席しか空いていなかった。カウンター席に座ったオーナーが、シェフと一緒に店を切り盛りしていた妻の江弥さんに「ここの味をたくさんの人に知ってほしい。東京に店を出してみませんか」と話しかけたのだ。振り返るとそこから、志焱のストーリーが始まった。
オーナーは2週間以内に答えを聞かせてほしいと言って店を後にした。シェフと江弥さんは、突然の提案に迷った。江弥さんは、小さな子どもを連れて馴染みのない東京に移ることを心配したが、「子どもを理由にして、シェフの志を邪魔してはいけない」と考え、シェフの背中を押した。3年後の今、家族全員で東京に越してきた。
「蓮は泥より出でて泥に染まらず」
シェフは25歳で飲食の世界に入った。遅いスタートだ。20歳で設計の仕事に就いたが、「これは本当に自分の仕事なのか」としっくりこないでいた。そんなときに、福岡にあるイタリアンの有名店のホールに欠員が出て、そこで働き始めた。
しばらくすると、厨房スタッフに入るチャンスに恵まれた。飲食でのスタートの遅れを取り戻そうと、ほかのスタッフより2時間前に厨房に入り、できる限りの準備をした、まさに、当たり前のことを人には真似できないほど一生懸命にやる「凡事徹底」を心掛けた。努力の甲斐あって、Pizzaioloとして頭角を現し、10年後にその有名店を辞める直前には、同店のナンバー3にまでなっていた。

自身の城を構えようと独立を決意した。2011年8月のことだった。福岡の住宅街・平尾にピッツェリア「ロータス」をオープン。店名のロータスとは蓮のこと。「蓮は泥より出でて泥に染まらず」ということわざがある。泥中の蓮は、たとえ汚れた環境の中であっても、それに染まらず清く正しく生きるさまのたとえだ。
ロータスを出店した街は、高級住宅が集まっている。シェフのこれまでの信念は、蓮のように全く染まらず、
一途にPizzaioloを極めた。そして、ロータスで知り合った数々の人々は、志焱のオーナーを含め、シェフのこの後の人生に大きく影響を及ぼすことになる。
2020年3月に「志焱」開店、具体的な準備は2年前から
志焱は、2020年3月に開店。東京での出店の具体的な話は、開店の2年前に始まった。オーナーと相談しながら場所や什器選び、店舗のコンセプトを決めた。さらに、シェフはPizzaioloとして納得できる窯を選んだ。食事と一緒に提供する酒や、食事を盛り付ける食器などは、オーナーの好みが反映されている。
店舗の入口の白い暖簾には、6つの瓢箪があしらわれ、お客様が六瓢(無病)息災であることを祈っている。店内に設けられた個室スペースの壁にも、たくさんの瓢箪が描かれている。
シェフは福岡の有名店やロータスの頃から、ピザ以外に生パスタも得意にしていた。志焱のパスタ製造機の選定では、ロータスの顧客だった福岡市にあるメーカーのトップにいろいろ便宜を図ってもらい、順調に導入できた。まだ、その人は店を訪れていないが、シェフは「その人が来店する時には、東京で頑張っている姿を見せたい」とはにかみながら話す。
食材にもこだわっている。いいものは全国から取り寄せている。モッツァレラチーズは、宮崎県のダイワファーム。ここは、「本物の乳製品」をうたい、牛に与える水にこだわっている。給仕担当の江弥さんは佐賀県出身だ。アスパラガスや玉ねぎは、佐賀県産。同県佐賀市の新たな栽培法は「じゅんかん育ち」と言われ有名だ。同市下水浄化センターで作られる下水道由来のリサイクル肥料をベースに、もみ殻やキノコの廃菌床、竹チップ、キトサン、微生物の活性液などを活用するものだ。
志焱の売りの一つは、窯で焼いた野菜だ。じゅんかん育ちの玉ねぎは、窯で熱を加えても、簡単には形が崩れず、いつまでもしっかりしている。味は、フルーツのように甘い。志焱では、おいしい野菜をお弁当の形で、日中に人形町で働く人たちに届けようという計画も練っている。人形町は、歴史ある名店がひしめく街。そんな中で、志焱は、お客様に心落ち着く空間と食の新たな価値を提供していく。